初期設定

【きょうもていねいに。】初期設定

ある日、カメラのシャッターを切ったら、
設定した記憶が全くないのに、
日付ありモードになっていた。
その上、何枚か撮った記憶があるのに、
カウントが01と表示されていた。

私、なんかやってしまったのかしら?と不安に思ったものの、
何事もなかったかのように日付無しモードに変更し、
フィルムが巻き上がるまで写真を撮り続けた。

カメラに入っていたフィルムは36枚撮り、
それより少なめの枚数のカウントでフィルムは巻き上がったが、
36枚きちんと撮りきれていた。
そして1枚だけ、おそらく初期設定だろう、日付が写りこんでいた。

87年1月15日、私はいったい何をしていたのだろうか?
思い出そうにも思い出せないが、
ただこの風景を見ていなかったことは明らかだ。

View On WordPress

初期設定

image-1-151

ある日、カメラのシャッターを切ったら、

設定した記憶が全くないのに、

日付ありモードになっていた。

その上、何枚か撮った記憶があるのに、

カウントが01と表示されていた。

私、なんかやってしまったのかしら?と不安に思ったものの、

何事もなかったかのように日付無しモードに変更し、

フィルムが巻き上がるまで写真を撮り続けた。

カメラに入っていたフィルムは36枚撮り、

それより少なめの枚数のカウントでフィルムは巻き上がったが、

36枚きちんと撮りきれていた。

そして1枚だけ、おそらく初期設定だろう、日付が写りこんでいた。

87年1月16日、私はいったい何をしていたのだろうか?

思い出そうにも思い出せないが、

ただこの風景を見ていなかったことは明らかだ。

手の中に残ったもの、それは……。

image-1-148

先日、あるギャラリーに行こうと思って最後の曲がり角を曲がったら、

なんとなく違和感があった。

あれ、曲がるところを間違えたかしら?と一瞬思ったけれど、

その先にはちゃんとギャラリーがある。

そう、角に立っていた建物がいつのまにか取り壊されていて、

見える風景が変わっていたのだ。

蔦の絡まるレンガ造りの小さな建物だった。

中に入ったこともなければ、開いているところをみたところもないけれども、

きっとこのお店の中ではいろいろな人が出会い、様々なことがあったのだろう。

嬉しい物語に、悲しい物語に。

たくさんの物語が想像できる素敵な建物だった。

残念ながら建物は無くなってしまったが、写真だけは残っている。

その写真を見ながら私は、物語を紡ぎ続けるのだろう。