初期設定

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ある日、カメラのシャッターを切ったら、

設定した記憶が全くないのに、

日付ありモードになっていた。

その上、何枚か撮った記憶があるのに、

カウントが01と表示されていた。

私、なんかやってしまったのかしら?と不安に思ったものの、

何事もなかったかのように日付無しモードに変更し、

フィルムが巻き上がるまで写真を撮り続けた。

カメラに入っていたフィルムは36枚撮り、

それより少なめの枚数のカウントでフィルムは巻き上がったが、

36枚きちんと撮りきれていた。

そして1枚だけ、おそらく初期設定だろう、日付が写りこんでいた。

87年1月16日、私はいったい何をしていたのだろうか?

思い出そうにも思い出せないが、

ただこの風景を見ていなかったことは明らかだ。

手の中に残ったもの、それは……。

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先日、あるギャラリーに行こうと思って最後の曲がり角を曲がったら、

なんとなく違和感があった。

あれ、曲がるところを間違えたかしら?と一瞬思ったけれど、

その先にはちゃんとギャラリーがある。

そう、角に立っていた建物がいつのまにか取り壊されていて、

見える風景が変わっていたのだ。

蔦の絡まるレンガ造りの小さな建物だった。

中に入ったこともなければ、開いているところをみたところもないけれども、

きっとこのお店の中ではいろいろな人が出会い、様々なことがあったのだろう。

嬉しい物語に、悲しい物語に。

たくさんの物語が想像できる素敵な建物だった。

残念ながら建物は無くなってしまったが、写真だけは残っている。

その写真を見ながら私は、物語を紡ぎ続けるのだろう。